日本人の名字の種類とルーツでも書いたように、名字のルーツとして最も一般的なものが地名です。 常識的に考えて、「○○に住む△△さん」の「○○」の部分が名字になったわけですから、地名由来が多いのが当然です。でも、大きく勘違いしている人や、これを真っ向から否定する人もいたりして驚きます。 勘違い組の筆頭は、名字と地名の関係を思いっきり強固にして、地名=名字、とする人達です。これは昔からありました。つまり、「地名があれば必ず名字もある」という人達です。本当にその名字があるかどうかは関係なく、名字のルーツとして、機械的に同じ地名をあげる人がいます。すべての地名から名字が生まれたわけではないので、こんなことをしても何の意味もありませんが、無意味に地名と名字を併記した書籍もあったりして困ります。 |
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そして、最近目につくのが、地名と名字はあまり関係ない、という大胆な説で、ネット上で目にすることがあります。これには大きく2種類あります。 1つは、もともと地名由来が少ない稀少性をあげて、地名と名字の関係は薄い、というものです。稀少姓や変わった名字については、ほとんどが独特の由来を持っており、地名とはあまり関係がありません。しかし、こういった稀少姓は名字の中では特殊なもので、これをもって地名と名字の関係の一般性を論じられても困ります。 もう1つは、現在のメジャーに地名にない、という理由で関係を否定するものです。今ではインターネット上で地図検索もできます。たいへん便利で私も頻繁に利用していますが、この地図に日本中のすべての地名が収録されているわけではありません。しかし、ネット地図で検索してヒットしないと、それだけで、この名字は地名由来ではない、と結論づける人達がいるのです。 名字の発生がピークだったのは、平安末期から戦国時代頃までの、いわゆる“中世”です。つまり、名字のルーツとなった地名は当時の地名であり、決して現在の地名ではありません。当時の地名が現在でも大きな地名であるとは限らず、今ではなくなっていることもあります。有名な例でいえば、全国順位で13位あたりにある「佐々木」という名字のルーツとなった地名は、今では存在しません。これもネット地図至上主義の人からみれば、地名由来でないということになるのでしょう。 また、「安芸」という名字は、旧安芸国である広島県にはほとんどありません。どうやら、これも地名名字無関係説の根拠らしいのです。「安芸」という名字のルーツは土佐国安芸郡安芸です。蘇我入鹿のいとこに蘇我赤兄という人物がいますが、壬申の乱で敗れて土佐に流されました。安芸氏はこの赤兄の末裔といわれる名家で、「平家物語」にも「安芸時家・実光」兄弟が登場しています。まぁ、この兄弟にしても、ある高名な作家の小説に「安芸国の住人」として登場していたくらいですから、勘違いはやむをえませんが・・・。 私の名字の「森岡」は、こういった弊害をもろに受けていました。「森岡」姓の著名人や有力一族はほとんどいなかったため、名字の事典の「森岡」の項はかなりいいかげんでした。多くの事典に「岩手県盛岡」がルーツとあったのです。要するに、「もりおか」という大きな地名が盛岡市しかなかったので、なんの考証もなく岩手県ルーツにされていたのです。 しかし、このあたりに「森岡姓」はほとんどありません。「森岡」という名字は西日本限定で、特に四国と紀伊半島に集中しています。実は愛知県に森岡という、そこそこの地名があり、尾張森岡という駅もあります。しかし、この付近には「森岡」姓はありません。日本一「森岡」が多いのは高知県(私の出身地です)で、特に仁淀川の流域に集中しています。このあたりの25000分の1地形図をよくみてみると、土佐市高岡町に「森岡」という小字!があることに気がつきます。これは角川書店発行の県別地名事典にも載っていない小さな地名ですが、どうやらここがルーツらしいのです。 |